|
産業テクノロジーの開発と科学者の自己責任
残念な事に、ジェームス・ワットによる蒸気機関の発明からオッペンハイマー博士の原子爆弾の開発に至まで、科学者はテクノロジカル・ブレイクスルーによって新しい産業時代を切り開いてきましたが、西欧の近代は、産業テクノロジーが生み出した地球規模の環境の汚染と破壊に対して何ら有効な対策を立てられずに今日に至っています。産業革命にイギリスに始まった西欧諸国の工業化による汚染物質は、テムズ、ライン等の諸河川経由で大西洋に注ぎ、海流に乗って全世界の海に広がりましたし、核爆発の技術は広島、長崎に投下された原子爆弾に象徴される放射能汚染の恐怖を人類社会にもたらしました。
それは、第一義的には当事者である国々の政府の責任であるでしょう。しかし、責任のかなりの部分は、これらのテクノロジーを生み出した私達科学者の側にあると言ってよいのではないでしょうか。1959年から1990年にいたる期間水産業界に身を置いた海洋生物学者としてエビ養殖のテクノロジーの開発と確立に積極的に参加した私にとっても、これは決して他人事ではないのです。この間の事情は、下に引用する最近の業界新聞の記事でも明らかでしょう。従って、私は、人生の前半に自分の達成した科学研究の成果が不本意にも生み出した諸悪の克服に、自分の後半の余生を捧げる決心をしたのでした。
エビの養殖事業が実際にはこのような形での環境汚染を伴いがちである可能性を早くから意識していた私は、早い時期からそれへの科学的対策についての研究を始めました。その結果生まれたのが当研究所の開発した、エビ感染症の防止と抑制に卓効があり、しかも環境に全く無害な画期的新技術だったのです。私は、少なくとも産業テクノロジーの開発者の一人としての自己責任の一端を果たし得たという満足感を持って研究にいそしんでおります。
|
『タイのエビ養殖生産量が低下』
ジェトロによると、タイのエビ養殖は、生産の低下などの問題が出ているほか環境面にも悪影響を与えはじめるなど、転換期を迎えているという。タイは現在、世界最大のエビ生産国といわれ、養殖エビの生産量は1977年度の1,589トンから1987年には23,566トン、1995年には26万トンと約20年間に163倍も急成長、養殖面積も1997年には8万ヘクタールちう広さ、養殖業者数も1995年には26,145社という増加ぶり。 しかし、この3、4年、化学物質の誤使用や不適切な汚水処理など他の管理不全などから黄頭病、白斑病などの病気が沿岸部の養殖場に流行するという問題に悩まされ、この結果、単位当たりの生産量の減少と生産コストの上昇という問題を抱えている。輸出量も1994年の178,543トンをピークに1997年度には128,068トンまで減少、こうした状況から内陸部での養殖に関心が持たれるよういなってきた。 内陸部の養殖は長期的には沿岸部での養殖よりも経済性に優れ、また、稲作による収入の50年分に相当する収入が4ヶ月の1サイクルの養殖だけで手に入ることから、内陸部の養殖が急激に普及した。 現在、内陸部の養殖池は3,389ヶ所、6,888ヘクタール、農民数4,000人、生産量は今年で25,000トン、養殖エビ全体の予測量25万トンの一割を占める規模に拡大してきた。 しかし、政府は環境、特に稲作に与える影響を懸念し、1998年7月7日の閣議で内陸部の新規養殖を禁止、養殖している業者にも120日後までに禁止するとの措置をとった。
|